W不倫をしたときの慰謝料相場|複雑な法律関係と請求金額への影響など

著者情報

弁護士 金井啓
金井啓
一般の方々に、わかりやすく法律の知識をお届けしております。
難しい法律用語を、法律を知らない人でも分かるような記事の作成を心がけています。
不倫慰謝料に関する様々な悩みを持つ方々のために、当ホームページは有益な情報を提供いたします。

結婚して配偶者のいる方が浮気をすると、配偶者から慰謝料の請求を受け、さらには離婚を求められることもあります。
ご自身が結婚をしていなくても、既婚者と不倫をしたときはその不倫相手の配偶者から慰謝料請求を受けることがあります。
この2つの状況が合わさった、いわゆる「W不倫」をした場合も同様に慰謝料の請求を受けることがあるのですが、W不倫では当事者も多くなり問題が複雑化します。
不倫をした方にとっては請求される金額が特に気になるところと思われます。
当記事ではW不倫に着目し、慰謝料の相場、そしてどのように請求がなされるのかを説明していきます。

「W不倫」に明確な定義はありませんが、ここでは「互いに配偶者のいる者同士がする不倫」と捉えて説明をしていきます。
例えば、[A夫婦(夫A・妻A)]と[B夫婦(夫B・妻B)]の2つの組み合わせがあったとしましょう。
妻Aと夫Bが不倫関係にある場合は、互いに配偶者がいる者同士の不倫となります。

夫A(被害者):妻A(加害者) ⇔ 夫B(加害者):妻B(被害者)

一般的な不倫であれば夫と妻、そして第三者である不倫相手の3者が登場人物となり、慰謝料を請求する人・請求される人の関係もそう難しくはありません。
しかしW不倫だと法律関係が複雑化します。
誰が誰に請求をするのか、また家族単位で考えることも重要ですし、それぞれに別居や離婚などの問題も引き起こされる可能性があります。

W不倫をしたときの慰謝料の請求権者

W不倫における慰謝料請求の関係を整理しておきましょう。

夫A(被害者):妻A(加害者) ⇔ 夫B(加害者):妻B(被害者)

AとBの夫婦において妻Aと夫Bが不倫関係になっていたとき、[A夫婦]においては夫Aが慰謝料の請求権者となります。
そこで共同不法行為を働いた妻Aおよび夫Bに対して請求を行うことができます。
そして夫Aは妻Aと夫Bのいずれに対しても満額を請求することができます。
そのため損害額が200万円と算定されるとき、夫Bに対してだけ慰謝料200万円をまるまる請求することも可能です。
ただし、夫Bは妻Aに対して、一緒に不法行為をしたのだからと求償権を行使して一部金銭の支払いを求めることもできます。

[B夫婦]においては妻Bが慰謝料の請求権者となります。共同不法行為をはたらいた妻Aおよび夫Bがやはり請求先となります。
そして妻Bがいずれか一方に請求をしたとき、求償権が生じて不倫をしたもの同士で金銭のやり取りが生まれるケースがあることも同様です。

W不倫における慰謝料の相場

慰謝料は損害賠償金の1種であり、精神的苦痛を金銭に置き換えて賠償を求めます。
そのため実費が生じたときのように客観的な根拠に基づいて算定をするのが難しく、いくつかの事情を考慮したうえで一定の相場内に収まることが多くなります。

一般的な不倫と同じ「数十万~300万円」程

不倫事件における慰謝料は「数十万~300万円」程が相場とされています。多くの場合はこの範囲に収まります。
もちろん、絶対に300万円を超えないというわけはなく、過去の裁判例にもあまり見られなかった特段の事情があるのであれば、300万円を超える可能性もあるでしょう。
ただし客観的に損害の程度を見積もることが難しい性質上、「1,000万円」や「1億円」などと相場を大きく超える金額が認められる可能性は低いです。
これはW不倫においても同じです。
「W不倫だから」という理由だけで相場を大きく超えることはありません。
W不倫といっても不倫が重なっているだけであり、結局は各当事者の事情、不倫の内容などを見て慰謝料の金額は考えていく必要があります。
なお、この相場は裁判上認められる可能性の高い金額であり、当事者間で合意があれば相場から離れた金額を請求することも可能です。
ただ、通常はあまりに大きな金額を加害者側が受け入れるケースが少なく、金額について話が調わないと、調停、そして裁判へと手続が進行していきます。
最終的に裁判で認められる金額かどうかが当事者間の交渉においても重要な指標となるため、相場について知っておくことは重要といえるでしょう。

慰謝料同士を相殺することはできない

一般論として、XがYに対して金銭債権を持っており、反対にYがXに対しても金銭債権を持っているのであれば、(特定の条件を満たした上で)これを相殺することができます。
互いに100万円の金銭債権を持っている場合相殺すると0円になりますので、わざわざ100万円を受け取ってもらった後でその100万円を渡してもらうというやり取りを行う必要がありません。

相殺前

X(100万円の債権) → Y
X ← Y(100万円の債権)

相殺後

X → Y
X ← Y

※互いに債権なし

W不倫では被害者が2人いますので、慰謝料の請求権も2つ発生します。
家族単位で見れば、[A夫婦]と[B夫婦]間で相殺できそうにも思えますが、当然に相殺できるものではありません。

上の例だとXとYが相対立していますが、W不倫においては請求者同士が相対立していません。
この場面で相殺を認めてしまうと、「自分の持つ慰謝料請求権が、配偶者の債務のせいで消滅してしまった」という状態になります。
夫婦とはいえ他人であり、他人の債務の存在を理由に自己の権利を相殺されるべきではないのです。
そのため原則として両夫婦間で慰謝料の相殺はできないことを知っておきましょう。
ただし、これも当事者間の話し合いで合意に至れば、実質相殺と同じ状態にすることは可能です。
互いの夫婦が離婚せず生計を一にしているのであれば、自己の配偶者に対する慰謝料請求は、自己に対する慰謝料請求と大差ありません。
そこで交渉により互いに慰謝料の請求権を放棄し、解決を図るケースもあります。

しかしながら、このときの交渉や相殺で常に金銭のやり取りが0円になるわけではありません。
一方の債権額が大きなときは、相殺後も残額があります。
W不倫においてもいずれか一方の配偶者に大きな責任が認められる場合、「夫Aのする慰謝料請求が200万円」「妻Bのする慰謝料請求が150万円」と金額に差が生じることもあります(夫Bから強く不倫関係を求めた場合など)。

夫A:妻A(責任が小さい) ⇔ 夫B(責任が大きい):妻B

このときは合意により互いに0円とするのではなく、夫Aには慰謝料50万円の請求権を残し、妻Bの請求できる慰謝料を0円とするのが公平といえます。

W不倫における慰謝料の金額を左右する要因

基本的に、不倫における慰謝料の金額を左右する要因は、「肉体関係の有無」「不倫による結果の大きさ(別居の有無や離婚の有無など)」「婚姻期間の長さ」「不倫期間の長さ」などです。
W不倫であっても各慰謝料請求権は独立したものですので、個々の金額はこれらの要因から考えていきます。
しかし上述の通り家族単位で考えるケースだと、両夫婦間の事情や結果にどれだけの差があるのかが金銭のやり取りに大きく影響します。
例えば次のような事情が、W不倫から生じる慰謝料の金額の差を生みます。

  • 不倫に対する積極性の差
  • 婚姻期間の差
  • 別居や離婚の有無

一方の配偶者が不倫に対して積極的で、乗り気でなかった相手を誘ったのであれば、慰謝料の金額にも差がつきます。
また、一方の夫婦は不倫発覚後も関係性を修復することができたのに対し、他方の夫婦は離婚をしてしまったのであれば、被害の大きさが異なります。
離婚をすることになった側の被害者がより大きな慰謝料請求権を持ちやすいです。

また、婚姻期間は長いほど慰謝料の相場額は大きくなります。例えば同じ離婚という結果が生じたとしても、婚姻期間が2,3年程度だと慰謝料は100万円~200万円程が相場です。
しかし婚姻期間が20年やそれ以上ととても長い場合は、200万円~300万円程が相場となります。
そのため両夫婦の婚姻期間に差があるときは、各慰謝料額にも差が生じる傾向にあります。

シチュエーション別にW不倫の慰謝料請求を説明

W不倫の場合、被害者が2人登場しますが、必ずしも当事者全員が不倫の事実を知って慰謝料請求を行うことになるとは限りません。
「誰にW不倫がバレたのか」によって結果は変わってきますので、W不倫をしてしまった方目線でシチュエーション別に状況を整理していきます。

自分の配偶者にのみW不倫がバレた場合

まずは、ご自身の配偶者にW不倫がバレてしまった状況を考えてみましょう。
このとき起こり得るのは、①離婚を求められる、②慰謝料を請求される、③不倫相手に慰謝料を請求する、の大きく3つが考えられます。
※①②③は同時にも起こり得る。

もし離婚をせず関係性の修復をご自身の配偶者が求めているのであれば、③を選択する可能性が高くなるでしょう。
不倫相手から求償権を行使されなければ、そして不倫相手の配偶者が事実を認識しておらず慰謝料を請求しないのであれば、ご自身が慰謝料を支払わずに済む可能性もあります。

不倫相手の配偶者にのみW不倫がバレた場合

ご自身の配偶者にはバレていないものの、不倫相手の配偶者にバレてしまった場合、前項で説明した状況と逆のことが起こり得ます。
結果的に不倫相手側が離婚をするかどうかに関わらず、ご自身が慰謝料の支払う可能性は高くなります。
ただ、金銭的なダメージは大きいものの、ご自身の配偶者に事実を知られていないことで家庭の崩壊は避けられるかもしれません。

両方の配偶者にW不倫がバレた場合

両方の配偶者に不倫がバレたときは、両夫婦が離婚をするのかしないのか、家族単位で慰謝料のやり取りについて交渉を行うのかどうか、それぞれの慰謝料の金額はいくらなのか、などの事情により各々の金銭的負担は変わってきます。
両夫婦が離婚せずに慰謝料請求権を放棄し、慰謝料の金額にも差がなければ、両夫婦でのお金のやり取りは発生しません。
しかし離婚をすることになり、ご自身の配偶者および不倫相手の配偶者の双方から慰謝料の請求を受ける可能性もあります。

W不倫の慰謝料問題に関する注意点

W不倫を原因とする慰謝料問題には、一方の被害者との関係で和解ができても、他方の被害者との関係で紛争が再び起こるリスクがあります。
時間差で他方の配偶者に不倫がバレたときには、いったん解決したと安心していたところに再度慰謝料請求を受けることになるかもしれません。
また、求償権をめぐって不倫関係にあった者同士で揉めるリスクもあります。
加害者と被害者が複数存在し、法律関係が複雑になっているため、弁護士に相談して紛争の長期化・再燃を防ぐことが大事です。

特に、一方の配偶者にまだ不倫が知られていない場合、バレないようにするためにも弁護士が大いに役立ちます。
直接当事者間で交渉を進めていると書面が自宅に届くおそれがあり、家族に不倫の事実が知られてしまうことがあります。
しかし弁護士に交渉を任せていれば弁護士を窓口とすることができますので、書面の送付やその他連絡がきっかけでバレてしまうリスクを下げられます。
よって、問題が複雑化しやすいW不倫においては無理にご自身で対応しようとせず、専門家も利用して対応することを検討しましょう。

横浜クレヨン法律事務所では・・・

浮気・慰謝料問題への対応に非常に力を入れています。婚姻関係の破綻が争点になった事例も数多く取り扱ってきました。

慰謝料問題に不安がある方、弁護士が親身になってサポートいたします。LINEを始めとした各種の無料相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

LINEで無料相談
メールで無料相談