不貞慰謝料が夫婦関係によっては減額または無効になる?

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弁護士 鈴木 晶
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難しい法律用語を、法律を知らない人でも分かるような記事の作成を心がけています。
不倫慰謝料に関する様々な悩みを持つ方々のために、当ホームページは有益な情報を提供いたします。

不貞行為による慰謝料額の相場は、一般的に数十万~300万円と言われています。

夫婦が離婚するのかしないのか、不貞行為の悪質性はどうだったのか、離婚によって被る精神的苦痛など、そのケースにおける様々な要因によって金額は大きく変動します。

特に、不貞行為があった際、夫婦関係はどうであったのかという点は、とても重要です。

というのも、夫婦関係によってはたとえ不貞行為があった事実を証明できたとしても、慰謝料請求が無効になる場合や、慰謝料額が相場よりも減額される可能性があります。

この記事では、不貞行為と夫婦関係がどう関与するのかについて説明します。

この記事でわかること
・法律上の婚姻関係の破綻の定義
・夫婦関係の破綻が認められるケース
・不倫・浮気の不貞行為で夫婦関係が破綻した場合の慰謝料相場
・不貞(不倫)以前に婚姻が破綻していた場合の慰謝料相場
・離婚したいのに夫婦関係の破綻が認められなかった際にすべき事
・専門弁護士に依頼するメリット

法律上の【婚姻関係の破綻】とは

民法770条では、法的に離婚を認める理由として、5つの法定離婚事由を定めています。

1:配偶者に不貞な行為があったとき
2:配偶者から悪意で遺棄されたとき
3:配偶者の生死が三年以上明らかでないとき
4:配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
5:その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

5の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは簡単にいうと、夫婦が婚姻継続の意思をなくしてしまい、夫婦としての共同生活を回復する見込みがない状態をいいます。

実際の裁判例では、1~4の法定離婚事由がない場合は、

  • 長期間にわたる別居している
  • DVやモラルハラスメントがある
  • 協力や扶助の義務を果たしてない
  • 犯罪行為を犯したり服役している
  • 家庭の放置している
  • 性格や性生活の不一致

などに着目し、各夫婦の状況を総合的に加味しながら、最終的に婚姻関係が破綻しているかどうかを判断しています。

つまり、婚姻関係が破綻しているか否かは、まさにケースバイケースということになります。

民法では、夫婦相互の義務として同居・協力・扶助の義務を定めており、夫婦相互に貞操を守る義務があると考えられています。つまり、夫婦の間には性的な関係が存在することを前提にしてその操を守る義務があると考えられているのです。

それらの義務の遂行が認められないような状態であれば、実質的に夫婦とはいえないと考え、婚姻関係が破綻していると定義します。

家庭内別居は夫婦関係の破綻になる?

家庭内別居とは、同じ家に住んでいるにも関わらず、配偶者と顔を合わせたり会話したりする機会がない夫婦関係を指します。

とはいえ家庭内別居に明確な定義はありません。住む場所は同じまま、夫婦間には会話は無く、一緒に食事を取らない、寝室は分ける、家計は別々、相手に対して「男女としての愛情を感じない」など。夫婦の数だけ「家庭内別居」のスタイルも異なります。

夫婦関係のことは当事者同士にしかわかり得ないこともあるため、裁判所であっても簡単に判断できず、婚姻関係が破綻していると認められにくい傾向にあります。

家庭内別居の場合は「長期間にわたる別居」では無いため、性格の不一致やその他の理由で、婚姻関係破綻を認めてもらうことになります。慰謝料請求された側としては、同居していることを踏まえてもなお既に婚姻関係が破綻していたと判断されれば、慰謝料の請求が無効となる可能性があります。

家庭内別居においては、「夫婦の協力関係があるか」という視点が重要視されます。たとえ、夫婦で顔を合わせることがなかったり、会話がなかったりしても、

「妻が夫の分も家事をしている」
「生活費は2人分とも夫が支出している」

といった場合は、いまだ協力関係があるとみなされ、婚姻関係は破綻していないと判断されることもあります。

2章目:夫婦関係の破綻が認められるケースとは?

それでは具体的にどういったケースで夫婦関係の破綻が認められるのか説明していきます。

長期間にわたる別居している

別居が続いている夫婦は、夫婦としての同居義務を守れていませんから、婚姻関係が破綻していると認められやすいでしょう。もちろん仕事や療養など、別居に正当な理由がある場合は別です。

婚姻関係の破綻と認められる別居かどうかは、以下がポイントになるでしょう。

1:家族構成(子供の有無、両親との同居の有無など)
2:別居に、仕事や療養などの正当な理由があるかどうか
3:別居前に続いていた同居の期間はどのくらいか
4:別居を開始した側が、不貞行為をした者などの有責配偶者かどうか

婚姻関係の破綻として認められる別居期間としては、3年間が目安です。3年以上別居が続いていれば長期間の別居と判断されて、夫婦関係が継続していると解釈されにくいでしょう。

もちろん、あくまで目安となりますので、①定期的に交流がある②お互いに夫婦関係を継続する意思があるといった事情がある場合には、3年でも破綻とは認められない可能性もあります。
逆に、お互いに今後の婚姻を継続する意思が明らかに無いのであれば、3年間が立たずとも破綻として認定される可能性は十分にあります。
あくまで総合判断ということですね。

DVやモラルハラスメントがある

民法では、夫婦は互いに助け合って生活する義務を負います。そのため、配偶者に対する身体的な暴力(いわゆるDV=ドメスティックバイオレンス)精神的な虐待や侮辱(いわゆるモラルハラスメント等)を行った事実があると、婚姻関係が破綻していると認められる可能性があります。

また、DV・モラハラを行った側は、離婚原因を作った有責配偶者とされる可能性が高いでしょう。

婚姻関係の破綻が認められるためには、DVやモラハラの事実を裏付ける証拠が必要となります。DVやモラルハラスメントが始まった時期、受けた期間、回数、内容等を総合的にみて裁判所に判断されるので、動画や写真などの証拠を少しでも多く集めておくと、早くから婚姻関係が破綻していたことを立証しやすくなります。

協力や扶助の義務を果たしてない

健康上の理由がないのに就労しない、家に生活費を入れない(経済的DV)、あるいは飲酒癖や浪費癖があり、それがもとで家庭内にトラブルを持ち込む等、婚姻関係の維持に向けた協力や扶助の義務を果たす姿勢が著しく欠けているときには、内容によっては婚姻関係の破綻が認められることがあります。

飲酒癖は、度合いによっては粗暴行為などのトラブルが起きるリスクがあるので、配偶者が過度の飲酒癖を抱えている場合、夫婦で協力して生活するのは困難と認められやすくなります。

また、浪費して趣味に没頭しすぎると、家庭の放置や性格の不一致などに発展する可能性もあるので、浪費の内容によっては婚姻関係の破綻が認められる場合も有り得るでしょう。

犯罪行為を犯したり服役している

配偶者が犯罪行為を犯し服役していたとしてもそれだけでは離婚条件にはなりません。

ただし、配偶者の一方がなんらかの犯罪行為で逮捕されて服役になった場合、他方配偶者に社会的な影響が及ぶと考えられ、その影響によって家庭生活が経済的・社会的窮地に陥るとすると、その他の事由と総合考量して、婚姻関係の破綻が認められる可能性があります。

裁判離婚においても、犯罪行為あるいは服役が婚姻関係を破綻させたと判断される要素になることも十分に有り得ます。

家庭を放置している

家庭の放置とは、配偶者の一方が仕事や趣味を優先してのめり込んでしまい家庭を無視している状態です。たとえば仕事のために長期間別居している場合や、宗教活動に集中して家族生活に支障を来たす等、夫婦としての同居協力扶助義務を果たしていない状態であれば、家庭の放置として、婚姻関係の破綻が認められる可能性があります。

個人で従事する活動によって、婚姻関係の維持に対する協力・扶助について夫婦が果たすべき義務が著しく欠けていると判断された場合、婚姻関係の破綻が認められることがあります。

性格や性生活の不一致

夫婦の性格や性生活が合わなければ、婚姻関係の破綻につながる可能性もあるでしょう。

配偶者に事情を話して改善するために他方の配偶者が寄り添えれば良いですが、身勝手な理由で寄り添うことがなければ、それは夫婦として協力できていないと言えるかもしれません。

また、夫婦間のセックスレスや性的な異常行為も婚姻を継続し難い重大な事由となり得ます。
ただし、お互いに健康な体で、性交渉に支障がない状態でのセックスレスに限りますので、注意してください。

ワンポイント
離婚原因の「婚姻を継続し難い重大な事由」の判断においては、夫のEDが原因であっても、その事由となる場合もあります。最高裁は「夫婦の性生活は婚姻の基本となるべき重要事項」と判示しています(最高裁昭和37年2月6日判決)
ただし、夫がEDであるからとって、同居・相互扶助が継続している状況で、家庭不和が特段存在しないような場合で不倫をした場合、不貞行為として慰謝料請求の対象となる可能性は高いといえます。
法的には、離婚原因である①「これ以上結婚を継続させるのは酷」というものの判断要素である「婚姻を継続し難い重大な事由」と、②「不倫をしてもやむをえないよね」という「婚姻関係の破綻の反論」はイコールではないのです。

3章目:不倫・浮気の不貞行為で夫婦関係が破綻した場合の慰謝料相場は?

不倫によって夫婦関係が破綻し、離婚することになったら、慰謝料相場は高額になる可能性が高まります。100万円~300万円程が相場です。

不倫・浮気が原因で離婚や別居に至ったのか、不倫があっても夫婦関係は継続しているのか、など夫婦関係がどの程度破綻したかによって慰謝料の金額は大きく変わります。

夫婦が離婚した場合
不倫・浮気によって離婚することになった場合、慰謝料は高額になる可能性が高まり、150万~300万円程度が相場です。

夫婦が別居した場合
離婚までには至らなくても、別居すると慰謝料は比較的高額になり、100万円以上になるケースが多いでしょう。

夫婦関係が継続する場合
不倫があっても夫婦関係が維持される場合、慰謝料は低額になり、50万~100万円程度となるケースが多いでしょう。

以上は相場ですが、個別の事情によって金額は異なりますので、専門の弁護士に相談しましょう。

4章目:不貞(不倫)以前に婚姻が破綻していた場合の慰謝料相場は?

不倫、浮気とも言われる不貞行為が民法上の不法行為として問題となるのは、不貞行為が夫又は妻の持つ平穏な夫婦生活をおくる権利(利益)を侵害することになるためです。

そのため、婚姻関係が破綻した以降に生じた男女の関係は、法律上で保護される利益がすでに失われているため、不法行為の成立が認められないことになります。

とはいえ、婚姻関係が破綻していたか否かを判断するのは裁判官ですから、婚姻関係が破綻していると裁判官が判断しない限り、不貞行為は配偶者に対する不法行為に該当します。

また、離婚成立後に配偶者の不貞行為が発覚したケースでは、不貞行為が行われた期間に婚姻関係が破綻していたか否か、がポイントになります。このようなケースでは、弁護士に相談すると良いでしょう。

破綻後の権利侵害に対する慰謝料を請求できない

慰謝料とは、精神的苦痛に対する損害賠償です。配偶者の不貞行為によって、夫婦で共に平穏な生活を過ごす権利を侵害された場合、他方配偶者が慰謝料を請求するケースがありますが、婚姻関係が破綻した状態では、すでに夫婦とは事実上言い難いため、婚姻関係破綻後の不貞行為に対する慰謝料請求の場合には、不貞行為が他方配偶者の権利侵害に該当しないと判断されて、慰謝料が認められない可能性が有ります。

ワンポイント
裁判実務では、「破綻していた」と判断された場合は慰謝料がゼロになりますが、「破綻までしていない」と判断された場合であっても、慰謝料の減額事由になる場合があります。
円満な夫婦関係で不貞を行ったときと、冷めていた夫婦関係の時に不貞を行った場合とでは、不貞をされた者の精神的苦痛が異なるからです。
裁判では「破綻寸前であった」「円満とは言い難い状況にあった」といった理由で慰謝料の減額理由となります。

5章目:夫婦関係の破綻が認められない場合でも離婚したい時は?

では、夫婦関係の破綻が認められそうにない場合でも離婚したいという時はどうすれば良いのでしょうか?

離婚の同意を求め続ける

相手の不倫などの問題もなく、その他特に夫婦関係が破綻しているという事情もなく、まったく離婚原因が見当たらないとしても、夫婦の双方が合意をしたら協議離婚が成立します。

そこで、同意を得るために相手方に「離婚したい」と働きかけを行いましょう。

具体的には夫婦で協議を行い、相手が離婚を拒んでいる原因がどこにあるかをヒアリング、分析し、その解決方法を模索します。

例えば、ヒアリングの結果、生活に不安を抱いていることが離婚を拒む原因だったという場合、独立援助金の趣旨で、一定の解決金を支払うという提案を行うことが有用です。

離婚を合意した場合は、合意したということを書面に残しておきましょう。離婚が成立するには、離婚届けの届け出が必要ですが、お互いが離婚に合意したという書面があれば、その時点から婚姻関係を継続する意思がないという証拠になり、婚姻関係を継続し難い重大な事由の要素として考慮されることになります。

別居する

相手を何度説得しても離婚に応じてくれない、話にならない場合には、いったん別居して距離を置きましょう。先にも説明した通り、夫婦の別居期間が長くなると、それだけで夫婦関係の破綻が認められることもあります。

別居という具体的な行動に踏み切れば、相手方も覚悟を決めて、離婚に同意してくれる可能性は高まります。

別居して、弁護士を代理人につけたうえで相手方と離婚協議を行うか、自ら離婚調停を申し立てる方法が考えられます。

離婚調停においても、法定の離婚事由が認められなくても、同意があれば離婚が成立するという点では、協議離婚の場合と同様です。

協議離婚と調停離婚のいずれがよいかは状況にもよりますが、基本的には協議離婚を行い、それで相手が応じてくれない場合に調停離婚に進まれた方がよいでしょう。

注意点
ただ、別居するとき、「いきなり家を出て生活費を払わない」という行動をとった場合は、あなたの方が「悪意の遺棄」となり、有責配偶者となってしまう可能性があります。生活費の支払いは夫婦間の義務です。義務を怠っていったん有責配偶者となってしまったら、あなたの方からは離婚請求ができなくなります。
ただし、別居に正当な理由があれば「悪意の遺棄」にはなりません。DVやモラルハラスメントから逃げるためであれば、「悪意」ではないからです。

別居したいときには事前に相手と話し合いをして「もう一緒に住めない」ことに双方が納得し、働いている場合は、家を出たあとには離婚するまでは婚姻費用を払いましょう。

6章目:不倫・浮気の不貞行為で夫婦関係が破綻した場合の慰謝料請求を専門弁護士に依頼するメリットとは?

不倫・不貞慰謝料問題を弁護士に依頼した場合のメリットについて説明いたします。

相手と直接やり取りする必要が一切なくなる

弁護士はご依頼者の代理人として、ご依頼者の連絡や交渉の窓口になります。相手に対する連絡や裁判所に対する連絡などは、基本的に全て弁護士が行うこととなります。

また、相手からの連絡・郵便物の郵送先や裁判所からの連絡・郵便物の郵送先なども、基本的に全て弁護士・法律事務所宛に行われることとなります。

そのため、弁護士に依頼をした場合は、相手と直接会ったり直接連絡をしたりする必要がなくなりますし、相手や裁判所からいつ自宅に書類や郵送物が送られてくるのかが分からないという事態を避けることができます。

負担が格段に軽くなる

相手に送付する書面や裁判所に提出をする各種書面の作成は基本的に全て弁護士が行うこととなりますので、ご自身で調べて作成する必要は一切なくなります。

また、必要な資料の種類や集め方・提出方法などの事項に関していつでも弁護士に聞くことができますので、ご自身で調べる必要はなくなりますし、漏れが発生する事態も防げます。

このように、弁護士に依頼することにより、ご自身で調べたり作成したりするといった負担がなくなります。

法的なアドバイスが随時可能なこと

どのようなケースでも必ず、「この金額で和解してよいか」など重要な判断の局面に差し掛かることがあります。
この場合にも、当事務所の弁護士が、専門的な知識や経験に基づき、お客様に法的なアドバイスをすることが可能になります。

不倫慰謝料・男女トラブルの交渉は、極めて複雑な利益状況を十分に考慮して、交渉相手の心情や願望などについても慎重に熟慮・検討しつつ、一つ一つしっかりと明確な意図を持って進めていくことが必要です。

弁護士は交渉対応・調停対応・訴訟対応の専門家ですので、弁護士に依頼をするということは、弁護士が有している膨大なノウハウを問題解決するために余すところなく利用できます。

そのため、有利な条件での解決に至ることができる可能性が飛躍的に高まります。

7章目:まとめ

不貞行為に関する慰謝料請求は、それまでの夫婦の関係がどうだったかという点に大きく左右されます。

場合によっては、慰謝料が減額になったり、請求そのものが無効となるケースもあります。

慰謝料を請求された側からすれば、すでに婚姻関係が破綻していたことをきっちりと説明すれば、慰謝料額が減額される可能性もありますので、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。

横浜クレヨン法律事務所では・・・

浮気・慰謝料問題への対応に非常に力を入れています。慰謝料を請求されても、免除または減額できたケースも数多く取り扱ってきました。

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