不貞慰謝料が夫婦関係によっては減額または無効になる?

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弁護士 鈴木 晶
一般の方々に、わかりやすく法律の知識をお届けしております。
難しい法律用語を、法律を知らない人でも分かるような記事の作成を心がけています。
不倫慰謝料に関する様々な悩みを持つ方々のために、当ホームページは有益な情報を提供いたします。

不倫慰謝料を請求された事案のご相談を受ける際、交際に至る経緯を聞くようにしておりますが、交際開始前、その相手から、妻(夫)との夫婦仲が良好ではない、妻(夫)とは長年セックスレスだなど説明された上で夫婦関係は破綻しているから交際しても大丈夫と言われ、それを信じて交際を受け入れたとの話をよく伺います。

夫婦関係の破綻とは、夫婦の関係が修復困難な状態になっていることをいいます。

このような場合で、のちの交際相手の妻(夫)から慰謝料請求を受けた際、その請求を免れたり、減額させたりすることができるでしょうか。今回は不倫交際開始時における夫婦関係の破綻の問題が、慰謝料請求にどのような影響を与えるかにつき解説いたします。

この記事でわかること
・そもそも夫婦関係の破綻とは何かわかる
・夫婦関係の破綻が認められるケースがわかる
・不貞(不倫)以前に婚姻が破綻していた場合の慰謝料相場
・夫婦関係の破綻が認められない場合でも離婚したい時どうすればいいかわかる
・不倫・浮気の不貞行為で夫婦関係が破綻した場合の慰謝料請求を専門弁護士に依頼するメリット

法律上の【婚姻関係の破綻】とは?

法律上、夫婦には「同居」「協力」「扶助」の義務があります(民法752条)。

しかしながら、「単身赴任や長期入院等の正当な理由がないにもかかわらず、同居生活を送らない」「婚姻関係の存続に向けて互いに協力し合えない」「扶助し合えない」といった、夫婦間の同居・協力・扶助義務を遂行できない状況で、かつその状況に回復の見込みがないときには、婚姻関係が破綻していると認定されることになります。

婚姻関係が破綻しているかどうかは、個別の事情や状況に応じて、家庭裁判所が判断を下します。

ここでは、いつの時点で婚姻関係が破綻していたかというタイミングの問題も重要になってきます。

配偶者が実際に不倫(不貞行為)をしていたとしても、当時のさまざまな事情を総合して、不貞行為をした時点ですでに婚姻関係が破綻していたと家庭裁判所に認められた場合は、不貞行為によって平和な生活が破壊されたわけではないことになります。

したがって、仮に配偶者が実際に不貞行為をしていたとしても、その不貞行為が夫婦に損害を与えたわけではないので、離婚は可能かもしれませんが、不倫相手に対して慰謝料を請求することはできないということになります。

家庭内別居は夫婦関係の破綻になる?

夫婦の婚姻関係が破綻しているか否かについてを外観上から判断できる要素の一つとして、別居の事実があります。

夫婦には、同居して互いに助け合いながら共同生活をおくる義務が法律上でもあります。

互いの仕事での事情、家族の病気や介護の目的など、やむを得ない事情による別居は例外となりますが、夫婦仲が悪くなって別居を選択することは、婚姻が破綻したものと見られる可能性があります。

それでは家庭内別居はどうでしょうか?

家庭内別居とは、夫婦が同じ自宅で生活を続けながらも、夫婦関係が悪化している状態のことをいいます。

破綻が認定されるための客観的要素の中心は、別居期間にあります。
必ずしも物理的な別居に限られるものではないものの、家庭内別居の場合には主張立証のハードルはあがります。

例えば、「会話がなかった。」というだけでは、家庭内別居とは認められません。

では、どのような場合に家庭内別居といえるのでしょうか。

例えば、同じ家屋で生活していても、生活する部屋を完全に区別しており、家計も別にしているような状態であれば、家庭内別居状態だったと認められやすいでしょう。

しかし、裁判で家庭内別居を主張する事案で、そのように完全に区分けができている例はほとんどありません。

家庭内別居状態だったか否かは、様々な諸事情を総合的に考慮して判断されるため、明確な基準を示すことは難しいですが、参考として家庭内別居状態であったと認定される判断材料の項目をあげておきます。

  • 夫婦の寝室は別々だった
  • 夫婦で買い物や旅行などに出かけることはなかった
  • 夫婦間でセックスレスであった
  • 離婚についての協議を行っていた
  • 食事は別々に作り一緒にとることはなかった
  • 掃除、洗濯は別々に行っていた
  • 家計を別々に管理していた
  • 夫婦間の会話が皆無だった

2章目:夫婦関係の破綻が認められるケースとは?

次に、婚姻関係の破綻が認められるケースについて解説します。

長期間にわたる別居している

単身赴任や長期入院といった正当な理由がないのに、長期間にわたって別居を続けているような場合は、婚姻関係の破綻が認められる可能性が高くなります。

婚姻関係の破綻に相当すると認められる別居期間は、同居期間や家族構成等によってそれぞれ異なってくると言ってよいでしょう。

離婚請求者が有責配偶者(不貞行為を行ったなど離婚の原因を作った側)であったかどうかによっても、離婚できるまでの別居期間は異なってきます。

別居が長期間に及んでおり、かつ離婚の意思表示、具体的には「協議離婚に向けた話し合いの形跡」や「離婚調停の申立て」等があると、婚姻関係の破綻は認められやすくなるでしょう。

DVやモラルハラスメントがある

配偶者に対する身体的な暴力(いわゆるDV=ドメスティックバイオレンス)、配偶者からの精神的な虐待や侮辱(いわゆるモラルハラスメント等)の事実があれば、婚姻関係の破綻という認定になりやすくなります。

モラルハラスメント(モラハラ)とは、倫理や道徳といった意味を持つ「モラル」と、嫌がらせという意味を持つ「ハラスメント」を合わせた言葉です。
つまり、倫理や道徳に反して、相手に精神的な虐待や侮辱などの嫌がらせを行うことを指します。

職場や家庭など、大人同士の間で起こることが多く、無視や暴言の他、わざと不機嫌に振る舞ったり嫌がらせをしたりするといったケースが多く見受けられます。

侮辱については、配偶者に向かって直接浴びせかけるものだけでなく、第三者に対して配偶者を誹謗・中傷することも、配偶者本人に対する侮辱とみなされることがあります。

またDVの範囲も広く、例えば、収入がありながら生活費を家に入れないなどの行為は経済的DVにあたります。

婚姻関係の破綻の度合いは、DVやモラルハラスメントが始まった時期、受けた期間、回数、内容等を総合的にみて裁判所に判断されるので、動画や写真などの証拠を少しでも多く集めておくと、早くから婚姻関係が破綻していたことを立証しやすくなります。

協力や扶助の義務を果たしてない

健康上の理由がないのにもかかわらず就労しない、家に生活費を入れない(経済的DV)、あるいは飲酒癖や浪費癖があり、それが元で家庭内にトラブルを持ち込むなど、婚姻関係の維持に向けた協力や扶助の義務を果たしていない場合、内容によっては婚姻関係の破綻が認められることがあります。

犯罪行為を犯したり服役している

配偶者の犯罪行為や服役があったときなどは、再犯回数・再犯可能性等の事情により家庭生活が再び経済的・社会的に窮地に陥る可能性があると判断されれば、他の事由と勘案して、婚姻関係の破綻が認められることがあります。

単純に犯罪行為をしたという事実だけでは、婚姻関係の破綻は認められないのが通常です。

家庭を放置している

家庭の放置とは、配偶者の一方が仕事や趣味を家庭よりも優先して、のめり込んでしまう状態です。たとえば仕事のために長期間別居している場合や、宗教活動に集中して家族生活に支障を来たす等、夫婦としての同居協力扶助義務を果たしていない状態であれば、家庭の放置として、婚姻関係の破綻が認められる可能性があります。

性格や性生活の不一致

性格の不一致、正当な理由がない性交拒否、あるいは異常性欲等に起因して、婚姻関係が回復不能に陥ったと判断されると、婚姻関係の破綻が認められることがあります。

配偶者に事情を話して改善するために他方の配偶者が寄り添えれば良いですが、身勝手な理由で寄り添うことがなければ、それは夫婦として協力できていないと言えるかもしれません。

3章目:不倫・浮気の不貞行為で夫婦関係が破綻した場合の慰謝料相場は?

不倫慰謝料の慰謝料は、不貞行為によって夫婦関係が破綻したかどうかで大きく金額が異なってきます。慰謝料の額は、不倫された側がどの程度の精神的苦痛を受けたかによって決定するので、夫婦関係が破綻し離婚するとなった場合、慰謝料は高額になります。

慰謝料の相場

  • 離婚や別居をせず夫婦関係を継続する場合:50万円~100万円
  • 不倫が原因で別居に至った場合:100万円~200万円
  • 不倫が原因で離婚に至った場合:200万円~500万円

不貞行為が原因でも離婚しないということは、そこまで精神的な苦痛を感じなかったのではないかと判断される可能性があるからです。

4章目:不貞(不倫)以前に婚姻が破綻していた場合の慰謝料相場は?

民法第709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めています。
ですが、不貞(不倫)以前から婚姻関係が既に破綻していたのであれば、不貞(不倫)によって婚姻関係が傷つくということもないので、損害は発生しないということになります。

また、最高裁判例は、有責配偶者からの離婚請求について高いハードルを課しています。しかし、不貞(不倫)をする以前から婚姻関係が破綻していたのであれば、不貞(不倫)によって婚姻関係が破綻したことにはならないことになります。すなわち、不貞(不倫)をしている者からの離婚請求であっても、有責配偶者からの離婚請求にはならず、高いハードルが課せられないことになります。

5章目:夫婦関係の破綻が認められない場合でも離婚したい時は?

夫や妻と離婚したいけれど、夫婦関係破綻を示すような離婚事由になりそうな事情がない場合には、どのようにすれば良いのでしょうか。
以下で離婚に向けてできることを解説します。

離婚の同意を求め続ける

相手の不倫などの問題もなく、その他特に夫婦関係が破綻しているという事情もなく、まったく離婚原因が見当たらないとしても、夫婦の双方が合意をしたら離婚は成立します。

実際に、日本で協議離婚する夫婦の多くは、法定離婚原因があると言えない状態でも、合意により離婚しています。

たとえば「別れてもう1度ひとりになってやり直したい」「婚姻生活に違和感がある」「この結婚は間違いだったとうすうす感じている」という程度の理由でも、相手の納得さえ得ることができれば離婚できるのです。

そこで離婚したいのであれば、まずは相手に対し離婚の同意を求めて、しっかりと話を切り出しましょう。

相手が専業主婦などで離婚後の生活に不安がある場合、離婚時にまとまった財産分与を行ったり「解決金」としてまとまったお金を渡したり家をあげたりすることで、納得してもらえる可能性もあります。

別居する

相手を何度説得しても離婚に応じてくれない、話にならない場合には、いったん別居して距離を置くとよいでしょう。夫婦の別居期間が長くなると、それだけで夫婦関係の破綻が認められることもあります。

あなたが誰かと性交渉を伴う不倫をしていて「有責配偶者」の場合でも、相当長期間別居していたら法定離婚原因が認められて離婚できる可能性も出てきます。

ただ、別居するとき、「いきなり家を出て生活費を払わない」という行動をとってはいけません。このようなことをすると、あなたの方が「悪意の遺棄」となり、有責配偶者となってしまうからです。生活費の支払いは夫婦間の義務です。義務を怠っていったん有責配偶者となってしまったら、あなたの方からは離婚請求ができなくなります。

悪意の遺棄
夫婦間の義務である「同居の義務」「協力義務」「扶助義務」を正当な理由なく履行しない行為。

別居したいときには事前に相手と話し合いをして「もう一緒に住めない」ことに双方が納得し、家を出たら必ず生活費を払いましょう。

6章目:不倫・浮気の不貞行為で夫婦関係が破綻した場合の慰謝料請求を専門弁護士に依頼するメリットとは?

裁判で慰謝料請求を成立させるためには、誰の目から見ても明らかな事実とそれを証明するための証拠が必要です。

実際に夫婦関係の破綻(婚姻関係の破綻)を裏付ける決定的な事実があれば、調停・裁判に発展したとしても慰謝料が認められる可能性はとても高いでしょう。
しかし、中には「なかなか客観的な証拠を用意することができない」「どういった理由であれば客観性があると言えるのか分からない」と、自分の今の状況を判断できない場合もあると思います。

そんなときには、法律の専門家である弁護士に相談するのが1番の近道です。

弁護士は過去の解決事例や法廷での経験から、どのような理由であれば夫婦関係の破綻(婚姻関係の破綻)が認められやすいのか・反対に認められにくいのかということも詳細に把握しており、今のみなさんが離婚に向けた準備を進めるにあたって、いつ何を行うのが最も効果的なのかというアドバイスも適宜行ってくれます。

気持ちがふさいでしまい、慣れない書類の手続きなどにも困惑することが多いですが、そういった面倒な手続きを代行してもらえるところも弁護士に依頼するメリットのひとつです。

一方、夫婦関係が破綻しているものの夫婦関係を再構築したいと考えている場合でも、弁護士に相談すれば適切なアドバイスや夫婦関係改善のための調停手続きを行ってくれるでしょう。

夫婦関係の破綻(婚姻関係の破綻)を感じているみなさんにとっては、現実的な生活を続けるだけでも精神的なストレスが大きいもの。
悩んだときには1人で抱え込まず、弁護士を頼ることでみなさん自身にかかる負荷をできる限り減らしていきましょう。

7章目:まとめ

「婚姻関係の破綻」が慰謝料請求の理由として認められるかどうかは、事案の内容、夫婦の置かれた事情や関係によって変わってきます。

極端なことをいえば裁判官によっても判断は異なります。

婚姻関係の破綻は客観的に見て証明するのが難しいため、裁判で婚姻関係の破綻が争点になりそうな場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

横浜クレヨン法律事務所では・・・

浮気・慰謝料問題への対応に非常に力を入れています。婚姻関係の破綻が争点になった事例も数多く取り扱ってきました。

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